福祉事務所の公務員による「水際作戦」に屈しない
前にも述べましたが福祉事務所によっては、福祉事務所の公務員が「面接相談」を強制し、保護申請に必要な用紙の交付を求めても交付をせずに、保護の要件を満たしているのに、「まず仕事を探してください」とか「親族に援助してもらってください」とか言って、保護申請をさせずに追い返す事例があります。
福祉事務所の面談相談室はプライバシーの保護の観点から密室になっていますから、テレビドラマで見る警察の取調室のようなものです。密室ですから、公務員がどんなうそを言っても脅しても証拠が残りません。生活保護法に詳しい支援者や議員の動向同席を求めても福祉事務所に拒否される場合が多いのです。申請をしようとする者は、なるべく窓口で交付を受けられる生活保護制度の説明資料と申請に必要な各種の用紙の交付を受けて退散するのが無難です。
申請に必要な用紙を交付しない場合は、前述した通り、その自治体の情報公開条例を活用して必要な用紙類や知りたい内容を記載した文書の公開請求をして入手します。情報公開請求権を行使した場合は、公務員は必要な対応に迫られますから、必要な用紙や文書を入手することができます。
生活保護申請書その他の必要書類を提出する場合も、福祉事務所長あてに郵送して提出することも可能です。申請の法的効力は、申請書その他の書面が福祉事務所に到達した時点で法的効力を生じ、福祉事務所長には、申請の審理を開始する義務が生じます(行政手続法7条)。
要保護者以外の代理人による保護申請も可能であること
生活保護の申請は、①要保護者本によるほか、②要保護者の扶養義務者、③その他の同居の親族の申請も可能としています(生活保護法第7条)。親族とは、次の範囲の者をいいます(民法725条)。これらの者は、生活保護法上の申請権者とされています。
①6親等内の血族(例えば、尊属なら父母から数えて6世までの血族)
②配偶者(夫又は妻
③3親等内の姻族(例えば、配偶者の曾祖父母までの姻族)
上記の申請権者以外の者でも、弁護士のような法律上代理が可能とされている者は、代理人として申請書その他書類を提出することができます。その他の単なる友人や知人の場合は委任状を添付しても代理を認めない扱いをしています。代理を認めない場合は、申請権者(要保護者本人、扶養義務者、同居の親族)の名義で申請書類を作成して申請権者の押印をした後、福祉事務所長あてに郵送します。
生活保護申請書は福祉事務所長あてに提出すること
福祉事務所の窓口の公務員が保護申請をしようとする者に対して「保護の要件を満たしていない」と言ったとしても、何らの権限のないものの発言に過ぎず、適法な行政処分ではありませんから、必ず福祉事務所長の決定(行政処分)を得る必要があります。適法な却下処分に対しては法律上の不服申立(審査請求)が可能です。何らの権限のない公務員の行為は行政処分とは言えず、法律用の不服申し立てはできませんから、単に公務員の法令違反行為として公務員の懲戒処分を求めるしか方法がありません。しかし、それによって損害を受けた場合のように公務員の行為の違法性の明確な場合は、国家賠償請求訴訟を提起することもできます。
生活保護申請書の提出先は、原則として要保護者の居住地を所管する福祉事務所長あてとしますが、居住地を有しない場合又は居住地の明らかでない場合には、現在地(現に所在している場所であって、一時的か否かは問いません。)を所管する福祉事務所長あてに提出します。
生活に困っていることを説明できること
生活保護の要否や程度は世帯を単位として判断されますから、世帯全体の各種の収入が保護申請時点で国の定めた最低生活費に満たない場合であることが必要です。収入が国の定めた最低生活費に満たない場合には、「最低生活費ー収入」の差額が保護費として支給されます。収入が最低生活費を超える場合には保護費は支給されません。国の定めた保護基準の文書は情報公開条例により入手することは可能ですが、計算方法が複雑ですから、申請者による計算は実際には困難ですので、申請書を提出した後の調査の段階でたんと公務員の質問に答えることとして、福祉事務所長の決定(行政処分)を待ちます。
収入が国の定めた最低生活費に満たない場合でも、次のいずれかに該当する場合には保護申請は却下されます。
① ほかの法律に基づく給付が受けられる場合
② 稼働能力(働く能力)を活用している場合
③ 世帯全体の資産が十分に活用されていない場合
④ 親族からの援助が受けられる場合
保護申請を却下する理由として多いのは、「稼働能力により保護を要しない」として却下をする場合です。たとえ稼働能力があったとしても、現実には長時間、就職のできない場合も多いし、健康上の理由により就職できない場合もありますから、却下の理由が誤っている場合には、不服申立(審査請求)をするほか、却下理由を検討し補正をして再度の保護申請書を提出します。
行政処分の効力については、行政庁卯(福祉事務所長)の決定(行政処分)が誤っている場合であって、法律上、誤った行政処分でも有効な処分として通用する行政側に有利な制度になっているのです。行政庁が自ら誤りを認めて職権取消をするか、又は裁判所での違法な処分の取消訴訟の勝訴判決が確定するまで、たとえ違法な行政処分であっても有効な処分として通用する効力を有するのです。この行政処分の効力のことを「公定力」といいます。
行政処分をした時点と事情の変更があった場合には、行政処分の前提に変更があったのですから、再度の保護申請書を提出します。例えば、「親族からの援助が受けられる」ことを理由として保護申請を却下した場合には、現実には援助が受けられない場合や受けていた援助が中止されたような場合は、保護申請時点との事情の変更があった場合ですから、当然、再度の保護申請書を提出することにします。
保護申請書その他の提出書類に虚偽の事実を記載しないこと
この場合の虚偽の記載とは、嘘と知りながら嘘の事実を記載することをいいますから、例えば、計算間違いで真実と異なる事実を記載したような場合は含まれません。生活保護法第85条は、虚偽の事実を申請した場合について次の罰則を規定しています。
①不実の申請その他不正な手段により保護を受け、又は他人をして受けさせた者は、3年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。ただし、刑法に正条があるときは、刑法による。
②偽りその他不正な手段により就労自立給付金の支給を受け、又は他人をして受けさせた者は、3年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。ただし、刑法に正条があるときは、刑法による。
上記の①②とも、刑法にその行為を処罰する規定がある場合(例えば、刑法246条の詐欺罪)には、刑法によります。
生活保護法第78条1項は、「不実の申請その他不正な手段により保護を受け、又は他人をして受けさせたものがあるときは、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の額の全部又は一部を、その者から徴収するほか、その徴収する額に100分の40を乗じて得た額以下の金額を徴収することができる」と一種の罰則的な規定をしています。
偽りその他不正な手段により就労自立給付金の支給を受け、又は他人をして受けさせたものについても同様とする規定があります。(生活保護法第78条3項)
不正受給ではありませんが、生活保護法第63条は、「被保護者が、急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けたときは、保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して、すみやかに、その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める金額を変換しなければならない」と規定しています。例えば、すぐには売れない資産の土地を所有している者に支給した保護金品について土地が売れた場合に支給した額の範囲内で自治体に変換する必要があります。
生活保護申請を提出した後の各種調査に必要な資料を準備しておくこと
生活保護開始の要件は、次の4要件を満たす子tが必要ですが、次の③④について福祉事務所の調査が実施されます。
①日本国民であること
②生活保護申請書が保護の実施機関に到達したこと(急迫状況にある場合は別)
③保護を必要とする状態にあるものであること
④稼働能力や資産を活用していること
平成26年7月18日の最高裁判所では、「外国人は生活保護法の対象ではなく、受給権はない」としました。
以上の4要件以外の支給要件はありませんから、例えば、次の場合に注意します。
①生活保護申請に年齢の制限はありません。年齢は無関係です。
②住民基本台帳に登録されているか否かは無関係です。
③税金を滞納しているか否かは無関係です。
④借金しているかどうかは無関係です。
⑤子供が私立学校に通っているか否かは無関係です。
⑥扶養義務者がいるかどうかは無関係です。
⑦扶養義務者の扶養のないことは保護開始の要件ではありません。