2.生活保護の基本原理

生活保護の基本原理とは

 生活保護法の基本原理とは生活保護法の大原則のようなもので生活保護法第1条から第4条に規定している4つの条文を指します。

①国家の責任による最低限度の生活保障の原理(生活保護法第1条)
②生活保護請求権の無差別平等の原理(生活保護法第2条)
③健康で文化的な最低限度の生活の保障の原理(生活保護法第3条)
④保護の補足性の原理(生活保護法第4条)

 これらの4つの原理は、生活保護法に規定された基本原理ですから、例外は許されません。この4つの基本原理に違反する法令の解釈や行政処分(例えば、保護申請の却下処分)は違法なものとして無効となり、又は違法な行政処分として裁判所により取り消されることになります。

 生活保護法第5条では、「前4条(1条から4条)に規定するところは、この法律の基本原理であった、この法律の解釈及び運用は、すべてこの原理に基づいてされなければならない」と規定しています。この4つの基本原理に反する生活保護法の解釈や運用は許されません。

それでは基本原理に各々説明していきます。

①国家の責任による最低限度の生活保障の原理(生活保護法第1条)

 生活保護法第1条では、「この法律は、日本国憲法第25条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする」と規定しています。国の義務として、

国は、

①生活困窮者に必要な保護を行う義務
②保護を受けるものの将来における自立の助長を図る義務

を規定しているのです。

 憲法25条1項は、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」として国民の生存権を保障しています。憲法の規定は、「すべて国民は」と規定しており生活保護法でも国籍条項を撤廃していませんから、外国人には生活保護法による受給権はありません。平成26年7月18日の最高裁判決では「外国人は生活保護法に対象ではなく、受給権もない」としています 。(憲法においても「すべての国民は…」となっています。)

 ちなみに上記では「日本国民の要件」を説明しましたが生活保護の開始の要件は上記を含む、次の4要件を満たすことが必要でありこれらの要件に該当しないものは保護の要件とはなりません。

①日本国民であること
②申請権者から生活保護申請がなされたこと、または急迫した状況にあること
③保護を必要とする状態であること
④資産、能力その他あらゆるものを活用していること

つまり、逆から読み取れば「親族の扶養義務者による扶養」は生活保護の要件ではありません。扶養義務者による扶養のないことが保護の開始の要件とはならないのです。これは後述する親族が「扶養照会」に応じなくても保護は開始されることになります。

②生活保護請求権の無差別平等の原理(生活保護法第2条)

(1)生活保護法第2条では、「すべて国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護を無差別平等に受けることができる」と規定しています。

この規定の趣旨は、

①生活保護を請求する権利があることと
②この保護請求権は、すべての国民に対して無差別平等に与えられていること

を規定したものです。

では「無差別平等」とは、何か?

次の通りとなります。

生活保護を必要とする状態に陥った原因(例えば、傷病、災害、失業、世帯主の死亡)のいかんを問わず、性別、信条、人種、社会的身分、家柄、性格などにより優先的または差別的に取り扱うことは許さないこと

を意味します。

 例えば、夫が逮捕され服役したため専業主婦の妻が無収入となった場合は、妻は保護請求権を持つことになります。すべて国民は、無差別平等の保護請求権を有しますから、保護申請者に素行不良の性格があっても保護の対象となります。 ただし、反社(いわゆるやくざ等)は生活保護法に国民に含まれない(国民には法令を遵守する者となる)ので生活保護の対象とはなりません。また、反社をやめれば受給を受けることは可能です。

③健康で文化的な最低限度の生活の保障の原理(生活保護法第3条)

 生活保護法第3条は、「この法律により保証される最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない」と規定していますが、ここでいう「健康で文化的な最低限度の生活水準」とは、憲法25条1項にいう「健康で文化的な最低限度の生活」の水準を意味します。

 「健康で文化的な最低限度の生活」とは、単に動物的な生存を維持するだけの生活を保障すればよいということではなく、国は、「健康で文化的な」生活を保障する憲法上の法的義務があるのです。生存権は、単に最低限度の生活を営む権利を意味するのではなく、「健康で文化的な」生活を追及する権利を意味するするのです。

 これは一体何を意味するものなのか。「健康的で」「文化的な」「最低限度」といった文言は常に抽象的であります。これらの判断は結局のところ厚生労働省の大臣の裁量となります。

④保護の補足性の原理(生活保護法第4条)

 生活保護法第4条1項は、「保護は、生活に困窮する者が、その利用しうる資産、能力、その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる」としています。生活保護は、資産、能力、その他あらゆる手段を活用したのちの補足とされていますから、これを「保護の補充性の原理」といいます。

 生活保護法第4条2項は、「民法に定める扶養義務者の扶養及びtの法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われる者とする」としています。生活保護は、民法に定める扶養義務者の扶養や他の法律(例えば、身体障碍者福祉法、児童福祉法、老人福祉法)に定める扶助が受けられない場合に限って、補足的に行われるとしています。しかし、生活保護法は、親族から扶養を受けられないことを保護開始の要件とはしていません。

 民法に定める扶養義務には、次の4種類がありますが、

①②の扶養義務は、相手方に対して自分の生活と同程度の生活を確保する義務(生活保持義務)とされていますが、

③④の扶養義務は、扶養者の生活に余裕がある場合に余裕の限度で困窮者を扶養する義務(生活扶助義務)とされて

います。

①夫婦間の扶養義務
②親権者の未成年者の子に対する扶養義務
③直系血族(例えば、父母、祖父母、子、孫)、兄弟姉妹の扶養義務
④特別の事情のある場合の3親等内の親族(おじ、おばまでの親族)間の扶養義務

 いずれの場合も扶養を強制する場合は裁判所の手続きが必要になりますが、生活保護法第24条8項は、保護の実施機関(福祉事務所長)は、保護の開始の決定に際して扶養義務を履行していないと認められる場合には、扶養義務者に対して書面で一定事項を通知することとしています。しかし、生活保護法は、扶養義務者から扶養を受けられないことを保護開始の要件としていません。

 生活保護法第4条3項は、「前2項の規定は、急迫した事由がある場合に、必要な保護を行うことを妨げるものではない」としていますが、急迫の場合には保護の実施期間は、補足性の原理に関わらずに必要な保護を行うことができるとしています。つまり、この条項は資産能力、稼働能力等の調査する時間がない(ex.飢えで瀕死である)場合の特例である。