生活保護の4原則とは
生活保護の4原則とは、生活保護法第7条から10条に規定しています。
次の4つの原則をいいます。
①申請による保護開始の原理(生活保護法第7条)
②基準及び程度の原則(生活保護法第8条)
③必要即応の原則(生活保護法第9条)
④世帯単位の原則(生活保護法第10条)
上記の生活保護制度の運用上の4原則は、生活保護法の基本原理と同様に、この4つの原則に従って生活保護制度が運用される必要があります。しかし、基本原理に反する生活保護法の解釈や運用が許されないのとは異なり、この4原則には例外が許される場合があります。
①申請による保護開始の原則(生活保護法第7条)
生活保護法第7条は、「保護は、要保護者、その扶養義務者又はその他の同居の親族の申請に基づいて開始するものとする。但し、要保護者が急迫した状況にあるときは、保護の申請がなくても、必要な保護を行うことができる」としています。要保護者とは、保護を必要とする状態にある者をいいます。つまりは、原則としては生活保護を受けようとするものは福祉事務所等に訪れる又は郵送で申請書を送付するなり自らでアクションを起こしてくださいということです。
保護の開始は、申請によることを原則としていますが、要保護者が急迫した(せっぱつまった)状況にある場合は、生命や身体に危険を生ずることとなるので、保護の申請が亡くても、保護の実施機関(知事や市町村長)は、急迫した事由の止むまでは、職権で必要な保護を行います。(生活保護法第19条)。申請によらない職権保護の開始は、実際には、民生委員や近所の人が最寄りの福祉事務所長に通報する場合が多いのです。これは、病気などで寝込む場合等には例外的に近親者に申請を補助させるための規定です。
申請者の範囲は、
①要保護者(保護を必要とする状態にある者)本人
②要保護者の扶養義務者
③その他の同居の親族
とされています。
保護の実施期間は、
①都道府県知事
②市長
③福祉事務所を管理する町村長
とされていますが、都道府県を市には「福祉事務所」の設置義務があり、実際には、福祉事務所長に知事や市長の権限が委任されています。福祉事務所を管理しない町村の事務は都道府県が行います。
②基準及び程度の原則(生活保護法第8条)
生活保護法第8条1項は、「保護は、厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし、そのうち、その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うもの」とされていますから、例えば、そのもの収入(例えば、賃金、年金収入、親族による援助)が国の基準による最低生活費に満たない場合に保護が適用されます。
つまり、実際に支給される保護費は
「最低生活費ーその者の収入=支給される生活保護費」
となります。
その者の収入が最低生活費を下回る場合に、その不足分が保護費として支給されるのです。
生活保護法第8条2項は、「前項(8条1項)の基準は、要保護者の年齢別、性別、世帯構成別、所在地別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって、且つ、これをこえないものでなければならない」としています。保護の基準と程度は、「最低限度の生活需要を満たすに十分なものであって、且つ、これを超えないものでなければならない」としているのです。
③必要即応の原則(生活保護法第9条)
生活保護法第9条は、「保護は、要保護者の年齢別、性別、健康状態等その個人又は世帯の実際の必要の相違を考慮して、有効かつ適切に行うものとする」としています。この原則を「必要即応の原則」といいますが、保護の種類・程度・方法は、
①要保護者の実際の必要の相違を考慮すること
②保護の基準は、要保護者の年齢別、性別、健康状態等の個人又は世帯に即応して有効かつ適切に行うこと
を規定しています。
この原則は、生活保護法第2条の「無差別平等の基本原理」をそのまま当てはめてしまうと弊害が生じるため除去するために規定されたものです。無差別平等の基本原理は、生活保護を受ける機会の均等を保障したものであって、実際の保護の運用では、保護の内容や方法は要保護者の個々の実情に即して決定される必要があるからです。
④世帯単位の原則(生活保護法第10条)
生活保護法第10条は、「保護は、世帯を単位としてその要否及び程度を定めるものとする。但し、これによりがたいときは、個人を単位として定めることができる。」としています。この「世帯単位の原則」は、
①保護の要否と程度は世帯を単位として定めること
②世帯単位の取り扱いが適当でない場合は個人単位で取り扱うことができること
を定めています。
つまり、原則と例外の規定を定めています。生活保護法は生活保護の受給を決定する場合というのは極めて急迫な状態に近いため(ex.食べるにも困っている)、例外規定によって各別の救済をできるようにしているように感じます。
この場合の世帯の認定については、「同一の住居に居住し、生計を一にしている者は、原則として、同一世帯員として認定すること。なお、居住を一にしていない場合であっても、同一世帯として認定することが適当であるときは、同様とすること」とされています(厚生労働省通知)。「生計を一にしている者」とは財布が一緒である感じでです。「世帯単位の原則」は、保護の要否や程度を決定する場合には、その要保護者の属する世帯全体の経済状況や必要性を考慮することが妥当であるとの考え方によるものです。例えば、2人世帯では、単身世帯の2倍の生活費はかからないとの考え方によるものです。
世帯単位の原則によりがたい場合は、例外的に個人を単位として保護の要否や程度を定めることができますが、この場合を、「世帯分離」といいます。
例えば、
①要保護者が扶養義務のないものと同居を開始した場合は、要保護者だけを世帯分離して保護する場合
②老夫婦の一方の妻が障害により介護老人福祉施設に入所する場合は、入所者だけを単身世帯として世帯分離して保護する場合
があります。