生活保護の保護基準とは
生活保護の保護基準とは、保護の要否を判断するための基準であり、かつ、保護の程度を決定するための基準をいいます。生活保護法の保護基準について生活保護法は次の通り規定しています。
生活保護法第8条1項 保護は、厚生労働大臣の定める機銃により測定した要保護者の需要を基とし、そのうち、その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする。
この場合の、「要保護者の需要」とは、要保護者(保護を必要とする状態にある者)が「健康で文化的な最低限度の生活」を営むのに必要なものをいいます。「健康で文化的な最低限度の生活」を営むのに必要なものの具体的基準は、厚生労働大臣が定めてその内容は官報に掲載されます。しかし、実際の最低生活費の計算は、厚生労働省の告示(生活保護法による保護の基準)・事務次官通知・局長通知・課長通知、問答集、要領、手引きその他の厖大な資料によって計算されますから、保護申請をしようとする者が保護基準の全部を知ることは困難ですので、先ず生活保護申請書を提出することが大切です。(申請しても却下されることはあってもそれ以上の不利益を被ることはない)
厚生労働省の告示の「生活保護法による保護の基準」として具体的な支給金額が告示されていますが、毎年のように変更になっています。
生活保護費は、「国の基準による最低生活費ー世帯全体の収入」により計算されます。生活保護費(最低生活費に不足する部分)は、要保護者の属する世帯の1カ月分の最低生活費から世帯全員の収入を差し引いた金額となります。この収入が、最低生活費を上回る場合には生活保護は受けられません。
保護基準は、8種類の保護の種類ごとに一般的な基準が示されていますが、特別の事由によって一般的な基準で対応することができない場合には厚生労働大臣が特別の基準をを定めることとしています。保護基準の設定に際しては生活保護法は次の通り規定しています。
生活保護法8条2項 前項(8条1項)の基準は、要保護者の年齢別、性別、世帯構成別、所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって、且つ、これをこえないものでなければならない。
上記により設定された保護基準は、住所地の自治体(都道府県と市)の生活保護担当課で閲覧することができますが、閲覧させない場合は、各自治体の情報公開条例によって開示請求をすることができます。ただ、閲覧すべき資料が大量にありますから、先ず、本署によって概要を知った後に情報公開請求をするのが便利です。
生活保護法の8種類の扶助のうち生活扶助、住宅扶助、葬祭扶助には、前項の市町村を次の通り6区分して支給額に差をつける「級地制」を採用しています。級地制とは、地域ごとの物価の差や生活様式の差を理由に6区分にして扶助額に差がつける制度です。級地制では、おおむね、1級地は大都市とその周辺、2級地は県庁所在地のような中都市、3級地はその他の市町村となっています。つまりは、大都市圏は物価や地代、家賃が高いことを踏まえてざっくり保護費を増額している。一方、過疎地になるほど物価や地代、家賃などが低いため保護費が少なくなるという理屈です。
生活保護の保護基準の実際(第3章に詳述)
生活扶助は、8種類の扶助の中の最も基本的な扶助であって、①衣食その他日常生活の需要を満たすものと②移送(要保護者の移動費用で通院交通費は除かれます)を内容としますが、次の合計額で計算されます。
①第1類の費用 | (個人単位の経費で、例えば、食費、衣服費) |
②第2類の費用 | (世帯単位の経費で、例えば、光熱費、家具費用、冬季加算) |
③各種の加算 | (例えば、妊産婦加算、障害者加算、在宅患者加算、児童養育加算) |
教育扶助は、義務教育にともなって必要な教科書その他の学用品、通学用品、学校給食その他の義務教育に伴って必要なものの扶助であって、高校の修学費用については教育扶助ではなく、生業扶助として支給されます。
住宅扶助は、家賃、地代、住宅の保守その他の住宅の維持のために必要なものの扶助であって、住宅の補修費用は被保護者の所有住宅に対してしか支給されません。賃貸住宅の保守費用(修理費用)は、一般的には貸主に負担する義務があるからです。
医療扶助では、指定医療機関の診療方針や診療報酬は、国民健康保険の診療方針や診療報酬の例によります。通院する指定医療機関の選定は福祉事務所長の権限とされていますが、被保護者の希望は尊重される必要があります。
では、要介護者に対する居宅介護その他の介護扶助は介護保険の例によりますから、基本的には介護保険の給付サービスと同様になります。65歳以上の者は介護保険に加入しながら生活保護を利用できますから、介護保険の自己負担分について介護扶助が現物給付されます。生活保護法の保護の補足性の原理(他の法律による保護が優先する原理)から介護保険の適用が優先し自己負担分が扶助の対象となります。
出産扶助では、一般に被保護者の出産は児童福祉法の入院助産制度が利用されますから、衛生材料費が出産扶助により支給されます。帝王切開や人工妊娠中絶の費用は、一般に医療扶助の対象となります。
生業扶助では、生業に必要な資金・器具・資料、技能の修得、就労のため必要なものが扶助の対象となりますが、高等学校の修学費用(例えば、授業料、入学金、教材費、通学交通費)も生業扶助の対象となります。授業料や入学金は公立高校の基準額により支給されます。中学や高校を卒業して就職する場合には、スーツや靴の購入費用が就職支度費として支給されます。
葬祭扶助は、検案、死体の運搬、仮想又は埋葬、納骨その他葬祭のために必要なものが対象となりますが、葬祭執行者に対して支給されます。被保護者である扶養義務者が葬祭を執行した場合は、葬祭扶助が支給されますが、扶養義務者以外の者(例えば、民生委員)が葬祭執行者となった場合は、その者の申請より葬祭扶助が支給されます。扶養義務者には葬祭を執行する義務はないので、その場合には民生委員その他の者が葬祭執行者となる場合があります。