福祉事務所とは
福祉事務所とは、社旗福祉法14条の規定により都道府県と市(東京都23区の特別区を含みます。)に設置が義務付けれている「福祉に関する事務所」をいいます。都道府県と市は、条例で、福祉事務所を設置する必要がありますが、町村は、条例で、その区域を所管区域とする福祉事務所を設置することができます。町村は、必要がある場合には、地方自治法の規定による一部事務組合又は広域連合を設けて福祉事務所を設置することができます。(社会福祉法14条1項・3項・4項)。この「福祉に関する事務所」の名称は、通常は、「〇市福祉事務所」といった名称が多いのですが、自治体によっては「保険福祉事務所」その他の名称にしている場合があります。
福祉事務所を設置した目的は、
①生活保護法
②児童福祉法
③母子及び父子並びに寡婦福祉法
④老人福祉法
⑤身体障碍者福祉法
⑥知的障害者福祉法に定める援護、育成又は構成の公務を社会福祉主事を置いて効率的・合理的に実施すること
にあります。
福祉事務所の所管する事務は、次の通り都道府県と市町村(特別区を含みます)とでことなっています(社会福祉法14条5項・6項)
A都道府県の設置する福祉事務所は、①生活保護法、②児童福祉法、③母子及び父子並びに寡婦福祉法に定める援護や育成の措置に関する事務を行います。
B市町村(特別区を含みます)の設置する福祉事務所は、①生活保護法、②児童福祉法、 ③母子及び父子並びに寡婦福祉法、④老人福祉法、⑤身体障碍者福祉法、⑥知的障害者福祉法に定める援護、育成又は更生の措置に関する事務を行います。
生活保護法は、保護を決定し実施する機関(保護の実施機関)として次の4種類を規定しています(生活保護法第19条1項・4項)。
①都道府県知事
②市長
③福祉事務所を管理する町村長
④上記の者から委任を受けた福祉事務所長
上記の4種類の保護の実施機関の中の④が大部分の事務を処理しています。この場合の委任は、民法の委任とは異なり、受任者(委任を受けた者)には委任者(委任をした者)の職務権限が移転しますから、福祉事務所長には、自己の責任で委任された事務を執行する義務があります。
福祉事務所には、福祉事務所長のほか、次の所員を置く必要があります。(社会福祉法15条1項)。
①指導監督を行う所員(社会福祉主事)(いわゆる査察指導員)
②現業を行う所員(社会福祉主事)(いわゆるケースワーカー)
③事務を行う所員
ただし、福祉事務所長が、その職務の遂行に支障がない場合に自ら現業事務の指導監督を行う場合には①の指導監督を行う所員を置く必要はありません。
(a)福祉事務所長は、都道府県知事又は市町村長(特別区の区長を含みます)の指揮監督を受けて公務を執行します(社会福祉法15条2項)。
(b)指導監督を行う所員は、福祉事務所長の指揮監督を受けて現業事務の指揮監督を行います。(社会福祉法15条3項)
(c)現業を行う所員(ケースワーカー)は、福祉事務所長の指揮監督を受けて、援護、育成又は更生の措置を要する者等の家庭環境等を調査し、保護その他の措置の必要の有無及びその種類を判断し、本人に対し生活指導を行う等の事務を行います。(社会福祉法15条4項)
事務を行う所員は、福祉事務所長の指揮監督を受けて、福祉事務所の庶務(例えば、保護費の給付事務、文書管理)を行います(社会福祉法15条5項)。
上記の「指導監督を行う所員」と「現業を行う所員」は、社会福祉主事でなければならないとされています。(社会福祉法15条6項)。社会福祉主事とは、社会福祉法18条により都道府県、市、福祉事務所を設置する町村に置くこととされている公務員をいいます。社会福祉主事は、都道府県知事又は市区町村長の補助機関の職員とし、年齢20年以上の者であって、人格が高潔で、思慮が円熟し、社会福祉の邁進に熱意があり、且つ、次のいずれかに該当する者の中から任用する必要があります。(社会福祉法19条1項)。
①大学等で厚生労働大臣の指定する社会福祉に関する科目を修めて卒業した者
②都道府県知事の指定する養成機関や講習会の課程を修了した者
③社会福祉士
④厚生労働大臣の指定する社会福祉事業従事者試験に合格した者
⑤上記の者と同等以上の能力を有すると認められるものとして省令で定める者
生活保護の実施体制
要保護者(保護を必要とする状態にある者)に対して保護を決定し実施する責任のある行政機関を保護の実施機関といいます。保護の実施機関には、上述したとおり、①都道府県知事、②市長、③福祉事務所を管理する町村長、④これらの者から委任を受けた福祉事務所長の4種類の保護の実施機関がありますが、実際には、④が大部分の事務を処理しています。
保護の実施機関は、次の者に対して生活保護法の規定により保護を決定し実施する必要があります。(生活保護法第19条1項)。
①その管理に属する福祉事務所の所管区域内に居住地を有するよう保護者
②居住地がないか、又は明らかでない要保護者であって、その管理に属する福祉事務所の所管区域内に現在地を有するもの
しかし、居住地が明らかである要保護者であっても、その者が急迫した状況にある場合はその急迫した事由が止むまでは、その者に対する保護は、その者の現在地を所管する福祉事務所を管理する都道府県知事又は市町村長が行うものとしています(生活保護法第19条2項)。要保護者が急迫した状況にある場合は、申請による保護の開始の原則の例外として、保護の実施機関は、職権をもって保護の種類・程度・方法を決定し保護を開始する必要があります。(生活保護法第25条1項)
被保護者(現に保護を受けている者)を救護施設、更生施設、若しくはその他の適当な施設に入所させ、若しくはこれらの施設に入所を委託し、若しくは私人の家庭に擁護を委託した場合又は介護扶助を介護老人福祉施設に委託して行う場合には、その入所や委託の継続中、その者に対して保護を行うべき者は、その者の入所又は委託前の居住地又は現在地によって定めます。(生活保護法第19条3項)
民生委員は、生活保護法の施行について、市町村長、福祉事務所長又は社会福祉主事の事務を執行に協力するものとされています(生活保護法第22条)。民生委員の任務は、社会奉仕の精神をもって常に住民の立場に立って相談に応じ、必要な援助を行い社会福祉の増進に努めるものとされています。民生委員は都道府県知事の推薦によって厚生労働大臣が委嘱することとしています。任期は3年で報酬はありません(民生委員法1条・5条・10条)。
(5)生活保護の事務は、かつては国の事務をして自治体の執行機関に事務を委任した機関委任事務とされていましたが、現在は、地方自治法2条9項1号に規定する法定受託事務(国が本来果たすべき役割のある事務のうち自治体が法令により委託している事務)として自治体の事務をされています。しかし、各大臣は、特に必要があると認める場合は、市町村の法定受託事務の処理について、市町村が法定受託事務を処理するにあたりよるべき基準を定めることができるとする地方自治法245条の9の規定により大量の「よるべき基準」の通知文書が厚生労働省から各自治体に配布されています。更に、地方自治法245条の4のでは、各大臣は、自治体の事務の運営その他の事項について適切と認める技術的な助言や勧告をすることができるとしています。実際の保護の開始や変更の実務は、厚生労働省告示、厚生労働省事務次官通知、社会援護局長通知、保護課長通知のような多数の通知によって運用されています。