保護申請から保護実施までの主な流れ
保護申請から保護実施までの一般的な正常な手続きの流れは、次の通りとなります。
① 保護申請をしようとする者に対して福祉事務所職員が必要な用紙を交付し、申請者の質問のに対して「面接相談」に応じ保護申請の援助をします。
⇩
② 保護申請者からの保護申請書その他の書類を受領し調査を開始します。
⇩
③ 調査では、福祉事務所職員が、必要に応じて、訪問調査、検診命令、金融機関等への照会、扶養義務者の調査を行います。
⇩
④ 法律に規定する保護開始の要件を満たす場合は、保護開始の決定をして申請者に書面で通知します。要件を満たさないと判断をした場合は却下の決定を申請者に書面で通知をします。
⇩
⑤ 保護開始の決定のあった各種の扶助の給付がなされます。
生活保護の開始は、原則として、要保護者、その扶養義務者又はその他の同居の親族の申請に基づいて開始するものとされていますが(申請主義の原則)、例外として、要保護者が、急迫した状況にある場合には、保護の申請がなくても、保護の実施期間は、必要な保護を行うことができます(生活保護法第7条)。この例外の場合を「職権保護」といいます。この職権保護は、要保護者の急迫した状況にある場合には、その現在地を所管する福祉事務所を管理する都道府県知事又は市町村長が行おうものとされています(生活保護法第19条2項)。
生活保護の申請から保護の実施までの実務
一般的な正常な実務では、先ず、生活保護申請をしようとする者に対して福祉事務所職員が保護申請用紙その他の必要な用紙を交付して、保護申請をしようとする者の質問に答えて用紙の記入の仕方その他について誠実に回答をして保護申請の援助をします。しかし、実務では、福祉事務所職員が申請に必要な用紙も交付せずに「面談相談」を強制する。
次に、生活保護申請者からの保護申請書その他の書類が福祉事務所に到達した後に必要な調査を開始します。生活保護申請書は、福祉事務所に到達した時点で法的効力を生じ、到達後は遅滞なく当該申請の審査を開始する必要があります(行政手続法7条)。福祉事務所において申請書の審査を開始した後、申請書の記載事項に不備があった場合、申請に必要な書類が添付されていない場合その他の不備が認められた場合には、申請をした者に対して、速やかに、相当の期間を定めて当該申請の補正を求める必要があります(行政手続法7条)
保護申請書を提出した後、福祉事務所職員から申請の取り下げを求められる場合がありますが、原則として取り下げてはなりません。取り下げは、最初から申請がなかったことになりますから、取り下げをせずに、福祉事務所長の却下の決定の通知文書を受け取った場合でも、却下の理由を補正して再度の保護申請をするのに役立つからです。公務員が取り下げを強制するとは違法行為ですから、従う必要はありません。
次に、生活保護申請書が福祉事務所長に到達すると、福祉事務所では、保護の決定等のため必要がある場合は、要保護者の資産や収入の状況、健康状態その他の事項を調査するために次のような調査等を実施します。
① 要保護者の居住場所への立ち入り調査(生活保護法第28条1項)
⇩
② 要保護者への検診命令(生活保護法第28条1項)
⇩
③ 要保護者への報告請求(生活保護法第28条1項)
⇩
④ 扶養義務者等への照会(生活保護法第28条2項)
⇩
⑤ 官公署その他の関係機関への照会(生活保護法第29条)
福祉事務所長は、保護の開始の申請があった場合は、保護の要否、種類、程度及び方法を決定する必要がありますが、法律に規定する保護開始の要件を満たす場合は、保護開始の決定をして申請者に書面で通知します。要件を満たさないと判断をした場合は却下の決定を申請者に書面で通知をします。これらの決定の通知の書面には、理由を付する必要があります。(生活保護法第24条3項・4項)。これらの決定の通知は、申請のあった日から14日以内にする必要がありますが、扶養義務者の資産や収入の状況の調査に日時を要する場合その他当別の理由がある場合には30日まで延長することができます(生活保護法第24条5項)。30日まで延長する場合は、その理由を書面により明示する必要があります(生活保護法第24条6項)。保護の申請をしてから30日以内に保護の要否の決定の通知がない場合は、申請者は、福祉事務所長(保護の実施機関)が申請を却下したものとみなすことができます(生活保護法第24条7項)。従って、この場合にも、申請者は、不服申立(審査請求)をすることができますが、違法な不作為(処分を怠ること)を理由に国家賠償請求訴訟を提起することもできます。
福祉事務所長が保護の開始をした場合には、概ね、次の例のような「生活保護開始決定通知書」が申請者に対して郵送されてきます。
決定通知第〇〇〇号
平成〇年〇月〇日
〇県○郡〇町○○番地
〇〇 〇〇殿
〇県○○福祉事務所長(公印)
生活保護開始決定通知書
生活保護法による保護を下記のとおり決定したので通知します。
記
1 氏名及び住所
〇〇 〇〇 〇県○郡〇町○○番地
2 決定内容・施工日・決定理由
決定内容 開始
施工日 平成〇年〇月〇日
決定理由 老齢により生活困窮と認め生活保護を開始する
3 保護の種類及び程度
生活扶助費 (中略) 円
住宅扶助 (中略) 円
4 保護の決定に伴い生じた支給額
支給額 (中略) 円
5 一時扶助
敷金 (中略) 円
生活扶助費移送費 (中略) 円
6 保護費の支給日
定期支給分は毎月5日(ただし、当日が土曜、日曜又は祝日の場合は、その前日)
7 保護費の支給方法
〇県○○福祉事務所の窓口で支給します。保護費を受け取るときは、この通知書と印鑑を持参してください。
8 この通知が申請受理後14日を経過した理由
扶養義務調査のため
9 教示
この決定に不服があるときは、この決定のあったことを知った日の翌日から起算して3カ月以内に○○県知事に対して審査請求に対する裁決を経た後、その裁決があったことを知った日の翌日から起算して6カ月以内に○○県知事を被告として提起することができます。
以上
保護開始の決定のあった各種の扶助の給付がなされます。要保護者に対して次のような扶助の給付がなされます。
① 生活扶助(食費、衣類、電気・ガス・水道のような費用)
② 教育扶助(義務教育のために必要な費用)
③ 住宅扶助(家賃や地代のような費用)
④ 医療扶助(病気やけがの治療に必要な費用)
⑤ 介護扶助(介護サービスを受けるために必要な費用)
⑥ 出産扶助(出産のための技能を習得するための費用)
⑦ 生業扶助(仕事のために必要な費用)
⑧ 葬祭扶助(葬儀のために必要な費用)
これらの扶助は、要保護者の必要に応じ、いずれか(単給)又は複数(併給)の給付として行われます(生活保護法第11条)。
以上の各種の扶助のほか、施設に入所させて保護する次の保護施設があります。(生活保護法第38条)。
① 救護施設
② 更生施設
③ 医療保護施設
④ 授産施設
⑤ 宿所提供施設
福祉事務所長(保護の実施機関)は、被保護者が保護を必要としなくなった場合には、速やかに、保護の停止または廃止を決定し、書面で被保護者に通知する必要があります(生活保護法第26条)この停止や廃止の決定(行政処分)に対しても不服申立をすることができます。
福祉事務所長(保護の実施機関)は、被保護者に対して、生活の維持、向上その他保護の目的達成に必要な指導又は指示をすることができます。しかし、この指導又は指示は、歩保護者の自由を尊重し、必要の最小限度に止める必要があります。この指導又は指示は、被保護者の意思に反して強制することはできません(生活保護法第27条)。
福祉事務所長(保護の実施機関)は、要保護者から求めがあった場合には、要保護者の自立を助長するために要保護者からの相談に応じ、必要な助言をすることができます(生活保護法第27条の2)。