21.保護の要否の判断基準

保護の要否の決定

 保護の実施機関は、保護の開始の申請があった場合は、
①保護の要否
②種類
③程度
④方法
 を決定し、申請者に対して書面で、これを通知する必要があります(生活保護法第24条3項)。

①の「保護の要否」は、要保護者世帯の最低生活費からその世帯の総収入を差し引いた不足分がある場合に保護が必要と判断されます。

②の「種類」とは、生活扶助、教育扶助、住宅扶助、医療扶助、介護扶助、出産扶助、生業扶助、葬祭扶助の8種類の扶助の中の一つ又は複数の扶助をいいます。

③の「程度」とは、不足分を補う程度において、最低限度の生活の需要を満たすに十分もので、かつこれを超えない程度をいいます。

④の「方法」は、要保護者の年齢、性別、健康状態その他の実際の必要の相違を考慮して扶助の方法を決定します。

 保護の実施機関とは、
①都道府県知事
②市長
③福祉事務所を管理する町村長
④これらの者から保護の決定や実施の事務を委任された福祉事務所長
 をいいます。(生活保護法第19条)。実際には、④の事務を委任された福祉事務所長が大部分の事務を処理しています。この場合の「委任」とは、民法上の委任とは異なり、委任を受けた福祉事務所長(受任者)に委任者の職務権限が移転しますから、福祉事務所長は、自らの権限で事務を処理する義務を負います。

 保護の実施機関(福祉事務所長その他の行政庁)は、保護の開始決定、変更決定その他の「決定」をしますが、この決定(行政庁の行政処分)の効力は、違法な決定であっても、権限を有する機関の職権により取り消されるか、裁判所の取消訴訟の勝訴判決が確定するまでは有効なものとして通用することとされています。この効力を「公定力」といいます。行政庁とは、福祉事務所長のような行政主体(国や自治体)の判断を決定し外部に表示する権限を有する機関をいいます。

保護の要否の判断基準(審査基準)

 保護の要否の判断基準(申請に対する審査基準)として、生活保護法関係法令、厚生労働省令の告示・事務次官通知・局長通知・課長通知その他の多数の通知文書によって実務が進められていますので、保護申請者がこれらの文書を読んで完全に理解して申請することは困難ですから、先ず、福祉事務所長あての保護申請書を提出することが大切です。

 生活保護法による保護の開始決定や保護の実施の事務は、本来は国の事務ですが、地方自治法2条9項により「法定受託事務」として自治体の事務とされています。自治体の事務であっても保護の要否の判断基準(保護申請に対する審査基準)は自治体で定めることはなく地方自治法245条の9の規定により大臣の定めた「よるべき基準」としての厚生労働省の通知により処理されています。生活保護法による保護開始の申請孫田の申請については行政手続法が適用されますから、行政庁(保護の実施機関)は、保護申請に対して次の通り処理する必要があります(行政手続法7条・8条・9条)。

①行政庁は、申請がその事務所に到達したときは遅滞なく申請の審査を開始する必要があります。行政庁は、申請に対する審査基準を定める者とされていますが、保護申請について、上記の「よるべき基準」が審査基準とされています。

②行政庁は、申請書の記載事項に不備がないこと、申請書に必要な書類が添付されていること、その他の申請の形式上の要件に適合しない申請については、速やかに、申請をした者に対し相当の期間を定めて申請の補正を求める必要があります。

③行政庁は、申請を拒否する処分をする処分をする場合には、申請者に対し、同時に、その処分の理由を示す必要があります。処分を書面でする場合は、その理由は、書面により示す必要があります。

④行政庁は、申請をしようとする者又は申請者の求めに応じ、申請書の記載及び添付書類に関する事項その他の申請に必要な条の提供に努める必要があります。

ただし、生活保護法第29条の2は、生活保護法に規定する保護の開始や変更の申請に対する却下処分、保護の変更・停止・廃止の処分については、行政手続法3章(不利益処分の規定)の規定は、
(a)処分の基準(12条)
(b)不利益処分の理由の開示の規定(14条)
を除いて、適用しないとしています。生活保護法で特別の規定をしているからです。

 保護の要否の判断基準の基本的考え方は、

①要保護者の世帯の最低生活費の合計額
②その世帯の総収入

との比較により、総収入が要保護者世帯の最低生活費のの合計額に満たない場合に、その不足分を扶助(保護費)として給付することになります。つまり、

扶助の額=「要保護者世帯の最低生活費の合計額ーその世帯の総収入額」

で計算されます。

保護は、「世帯」を単位としてその要否と程度を定める者としていますが、これによりがたい場合は個人を単位として定めえることができますが、これによりがたい場合は個人を単位として定めることができます(生活保護法第10条)。「世帯」とは、現実に住居及び生計を同じくしている者の集団をいいます。一定の親族を中心している場合が多いものの、他人が入っている場合もあり、一人世帯もあります。同一世帯の認定は、同一住居に居住し生計を一にしている者は、原則として同一世帯員として認定されます。

 保護の要否の判断基準の基本的考え方は、生活保護法第8条に次の通り規定しています。

① 保護は、厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし、そのうち、その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする。

② 前項①の基準は、要保護者の年齢別、性別、世帯構成別、所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって、かつ、これをこえないものでなければならない。

 収入額の認定は、次の通りとなります。

① 収入の認定は、「月額」によることとし、この場合に
(a)収入がほぼ確実に推定できる場合はその額により
(b)そうでない場合は前3カ月間程度の収入額を標準として定めた額により
(c)数カ月若しくはそれ以上の長期間にわたって収入の実情につき観察することを適当とする場合は、長期間の観察の結果により
適正に認定することとしています。

② 収入は、現物による収入か金銭による収入かを問わず、

稼働収入のほか
年金収入
手当のような公的給付
仕送りによる収入
資産の売却収入その他種類に関わらず一切のもの

を収入として計算します。
ただ、収入を得るために必要な経費は収入額から控除されます。

③ 就労による収入として、例えば、勤労収入農業収入農業以外の事業収入があります。これらの収入を得るために必要な経費は収入額から控除されます。

④ 就労以外の収入、例えば、年金・恩給等の収入、仕送りや贈与により収入があります。

⑤ 収入として取り扱わない者の例として、
出産・就職・結婚・葬儀のような冠婚葬祭の際に贈与される祝金や香典で社会通念条収入として認定することが適当でないもの
義務教育を受けている児童が就労して得た収入であって収入として認定することが適当でないもの
があります。

 保有資産の活用については、最低生活の内容としてその所有又は利用を容認するに適しない資産は、次の場合を除き、原則として処分のうえ最低限度の生活の維持のために活用させることとしています。ただ、資産の活用は売却を原則とするが、これにより難い場合は、その資産の貸与により収益を上げる等活用の方法を考慮することとしています(事務次官通知)。

①その資産が現実に最低限度の生活維持のために活用されており、かつ、処分するよりも保有している方が生活維持及び自立の助長に実効が上がっているもの

②現在活用されていないが、近い将来において活用されることがほぼ確実であって、かつ、処分するよりも保有している方が生活維持に実効が上がると認められるもの

③処分することができないか、又は著しく困難なもの

④売却代金より売却に要する経費が高いもの

⑤社会通念条処分させることを適当としないもの

 資産保有の限度と資産活用の具体的取扱いの主なものは次の通りとなっています(局長通知)。これらは法律の規定もないのに申請に対する実際の審査基準とされています。

① 宅地のうち、次の場合は保有を認めていますが、処分価値が利用価値に比べて著しく大きいと認められる場合は除かれます。

(a)その世帯の居住用家屋に付属した土地で建築基準法により必要とされる面積の土地

(b)農業孫他の事業用の土地で事業遂行上必要最小限度の面積の土地

② 田畑は、次のいずれにも該当する場合には保有を認めていますが、処分価値が利用価値に比べて著しく大きいと認められる場合は除かれます。

(a)素温地域の農家の平均耕作面積、その世帯の稼働人員等から判断して適当と認められるものであること

(b)その世帯の世帯員が現に耕作している者であるか、またはその世帯員若しくは世帯員となるものがおおむね3年以内に耕作することにより世帯の収入増加に著しく貢献するようなものであること

③ 山林と原野は、次のいずれにも該当する場合には保有を認めていますが、処分価値g利用価値に比べて著しく大きいと認められる場合は除かれます。

(a)事業用(植林事業を除く)又は薪炭の自給用若しくは採草地用として必要なものであって、その地域の低所得世帯との均衡を失することにならないと認める面積のもの

(b)その世帯の世帯員が現に最低生活維持のために利用しているものであるか、またはその世帯若しくは世帯員となるものがおおむね3年以内に利用することにより世帯の収入増加に著しく貢献するようなものであること

④ 家屋については、次の通りとされています。

(a)そのお世帯の居住用に供される場合は保有を認めていますが、処分価値が利用価値に比べて著しく大きいと認められる場合は除かれます。保有を認める場合でも、その世帯の人員、構成等から判断して部屋数に余裕があると認められる場合は、間貸しにより活用させることとしています。

(b)事業用に供される家屋で営業種類別、地理的条件等から判断して、そのお家屋の保有がその地域の低所得世帯との均衡を失することにならないと認められる規模のものは補油を認めていますが、処分価値が利用価値に比べて著しく大きいと認められる場合は除かれます。

(c)貸家の保有は認めれませんが、その世帯の要保護推定期間(概ね3年以内)の家賃の合計が売却代金ヨロ多いと認められる場合は保有を認めて貸家として活用さえることとしています。

⑤ 事業用品については、次のいずれにも該当する場合は保有を認めていますが、処分価値が利用価値に比べて著しく大きいと認められる場合は除かれます。

(a)事業用設備、事業用機械器具、商品、家畜であって、営業種目、地理的条件等から判断して、これらの者の保有がその地域の低所得世帯との均衡を失することにならないと認められる程度のものであること

(b)その世帯の世帯員が現に最低生活維持のために利用しているものであるか、又はその世帯員若しくは世帯員となる者が、概ね1年以内(事業用設備は3年以内)に利用することにより世帯の収入増加に著しく貢献するようなもの

⑥ 生活用品については次の通りとされています。

(a)家具什器と衣類寝具は、その世帯の人員、構成等から判断して利用の必要があると認められる品目及び数量は保有を認めています。

(b)趣味装飾品は、処分価値の小さいものは保有を認めています。

(c)貴金属や債券は保有を認めません。

⑦ 自動車の保有は原則として認められませんが、例外的に、
(a)障碍者が通勤・通院・通所・通学のために利用する場合
(b)公共交通機関のお利用が不可能か著しく困難な地域に居住する者が通院等に利用する場合、その他の一定の場合
 には保有を認めています。ただ、きわめて厳格な要件を定めています。125cc以下のオートバイや原動機付自転車は、自賠責保険や任意保険に加入していること、維持費の捻出が可能なこと、その他の条件を見て住場合には保有を認めています。

⑧ 生命保険に加入していて解約すると返戻金のある場合は幻想として解約させられます。ただ、返戻金が少額(最低生活費の3カ月程度以下)、かつ、保険料額がその地域の一般世帯との均衡を失しない場合は解約の必要はないとしています。ただ、将来、保険金又は解約返戻金を受領した場合は、保護の実施機関の定めた金額を返礼する必要があります。

⑨ 預貯金や現金は、最低生活費の1カ月分を超える場合は保護を利用することはできませんが、最低生活費の半額いないとか1か月以下の場合はその金額分の保護費が減額されるものの保護を利用することができます。

⑩ 交通事故の賠償金を受け取った場合は、保護の実施機関に申告し実施機関の決定した金額を返還する必要があります。しかし、その世帯の自立を著しく阻害すると認められる場合は、一定額を控除して返還額を決定することもできるとされています。

⑪ ローン完済前の住宅を保有している場合は原則として保護の利用はできません。しかし、金融機関がローンの返済を猶予している場合や返済期間が短期で支払金額も少額の場合には保護の利用が認められる場合があります。