23.扶養義務者の対応

扶養義務者の取り扱い

 要保護者に扶養義務者がある場合には、扶養義務者に扶養及びその他の支援を求めるよう要保護者を指導するとともに民法上の扶養義務の履行を期待できる扶養義務者のある場合は、その扶養を保護に優先させることとしています(生活保護法第4条2項)。この民法上の扶養義務は、法律上の義務ではあるものの、これを直ちに法律に訴えて法律上の問題として取り運ぶことは扶養義務の性質上なるべく避けることが望ましいので、努めて当事者間における話し合いによって解決し、円満里に履行させることを本旨として取り扱うこととしています(次官通知)。

生活保護法第4条2項は、民法に規定する扶養義務者の扶養は、生活保護に優先して行われるとしていますが、扶養義務者の扶養のないことが保護開始の要件ではありません。

 扶養義務者の在否の確認について、保護の申請があった場合は、要保護者の扶養義務者のうち次に掲げる者の在否を速やかに確認することとし、この場合には、要保護者からの申告によるものとし更に必要がある場合には戸籍謄本等により確認するとしています(局長通知)。

①絶対的扶養義務者(親子のような直系血族、兄弟姉妹、配偶者)

②相対的扶養義務者(おじ・おば・ひ孫のような3親等内の親族)

(a)現に要保護者又はその世帯に属するものを扶養している者

(b)過去に要保護者又はその世帯に属する者から扶養を受ける等の特別の事情があり、かつ、扶養能力があると推測される者

 民法は、絶対的扶養義務者について次の通り規定しています。

民法877条 1項 直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養する義務がある。
民法752条 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。

相対的扶養義務者については次の通り規定しています。

民法877条2項 家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、3親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。

 親族間の法律上の扶養義務には、次の①生活保持義務と②生活扶助義務があります。

①生活保持義務とは、夫婦間や親と未成熟なことの間の扶養義務をいいます。生活保護義務の内容は、自分の収入や資産を使って被扶養者に自分と同程度の生活を保障する義務をその内容とします。夫婦間や親と未成熟のことの間の関係は、扶養することがその身分関係の本質的な要素となっているのです。

②生活扶助義務とは、民法877条1項の「直系血族及び兄弟姉妹は、お互いに扶養する義務がある」との規定に基づく親族間の扶養義務をいいます。生活扶助義務は、被扶養者が何らかの事情で生活不能となった場合に、その範囲で援助をする義務なのです。例えば、子が老親を扶養する義務は、生活保持義務ではなく生活扶助義務となります。老親が子に扶養を請求する場合は、家庭裁判所の家事調停・家事審判の手続きによる必要がありますが、家庭裁判所の審判が確定した場合でも子に資力がない場合は、強制執行をしても無駄に終わります。

扶養義務者の調査・通知・報告の実施

 扶養能力の調査については、保護の実施機関の把握した扶養義務者について、その職業、収入等につき要保護者孫他により聴取する等の方法により、扶養の可能性を調査します。調査に当たっては、金銭的な扶養の可能性のほか、被保護者に対する定期的な訪問・架電・書簡のやり取り、一時的な子供の預かり等の精神的な支援の可能性についても確認することとしています。

 扶養義務者への通知については、保護の実施機関は、扶養義務者が民法の規定による扶養義務を履行していないと認められる場合は、その扶養義務者に対して要保護者の氏名と保護開始の申請日を記載した書面で通知をすることとしています(生活保護法第24条8項)。保護開始の申請をした要保護者について保護開始の決定をしようとする場合は、要保護者の扶養義務者に対する扶養能力の調査によって扶養義務者の負担すべき費用の徴収を行う蓋然性が高いなど、明らかに扶養義務を履行していない場合には、要保護者の氏名と保護開始の申請日を記載した書面により保護開始決定をするまでの間に通知することとしています。ただし、通知をすることが適当でないとして厚生労働省令で定める場合は除かれます。例えば、通知により保護申請書の自立に重大な支障を及ぼす恐れがある場合は通知されません。

 保護の実施機関は、保護の決定や実施等に必要がある場合は、要保護者の扶養義務者に対して報告を求めることができます。(生活保護法第28条2項)