処分とは
生活保護申請書を保護の実施機関(福祉事務所長その他)に提出しても申請その者を却下(申請を認めない決定)をする場合がありますが、この場合の却下のような決定を「処分」とか「行政処分」といいます。処分(行政処分)とは、福祉事務所長のような行政庁(自治体のような行政主体のために意思決定をする権限を有する行政機関)が法令の規定に基づいて国民の権利義務を発生させ、法律上の効果を発生させる行為をいいます。生活保護法に基づく処分の例には、保護開始の申請や変更の申請に対する却下の処分、すでに受けている保護の停止(一時的な支給停止)や廃止(打ち切り)の処分があります。
行政庁の処分(行政処分)に対する不服申し立ての一般法としては「行政不服審査法」がありますが、行政不服審査法では不服申し立ての対象となる行為を「行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為」としています(行政不服審査法1条1項)。公権力の行使とは、自治体や国のために意思決定をする権限を有する行政庁が国民に対し命令し強制する行為をいいます。生活保護開始申請を福祉事務所長が却下する行為は、公権力の行使である処分に当たります。
福祉事務所長の処分(例えば、却下の処分)に不服がある場合は、
①都道府県知事に対してする審査請求
②審査請求をした後の福祉事務所長の処分の取消訴訟
の手段があります。
ただ、実務上は、却下の処分に対して審査請求をした場合でも、却下の理由を補正して再度の保護申請をすることが大切です。
処分に対する不服申し立ての種類
処分に対する不服申立の種類には、行政不服審査法による
①審査請求
②再審査請求
があります。
その他には、裁判上の手続きとして、
③処分の取消訴訟の提起
④国家賠償法による国家賠償法による国家賠償請求訴訟の提起
があります。
①この場合の審査請求とは、処分した行政庁(行政機関)の上級行政庁である都道府県知事へ申立をする不服申立をいいます。例えば、都道府県の出先機関の福祉事務所長の行政処分や中核市の市長の行政処分に対して都道府県知事に対して、審査請求をする場合です(生活保護法第64条)。
②この場合の再審査請求とは、審査請求に対する裁決(都道府県知事のなした結論のこと)に不服がある場合に、さらに上級の行政庁である厚生労働大臣に対して不服申立することをいいます。(生活保護法第66条)
③処分の取り消し訴訟とは、行政庁の違法な処分について裁判所にその処分の取消を求める訴訟をいいます。(行政事件訴訟法3条2項)。
④国家賠償請求訴訟とは、民事訴訟により生存権が侵害された損害の回復を図る訴訟をいいます(国家賠償法1条1項)。
行政庁の不作為(何らの処分をしない場合)についても処分性が認められますから、不服申立をすることができます。保護申請に対する行政庁の不作為については、生活保護法第24条7項で「保護の申請をしてから30日以内に第3項の通知(保護の要否その他の処分結果の通知)がないときは、申請者は、保護の実施機関が申請を却下したものとみなすことができる」と規定していますから、都道府県知事に対して、申請者は、審査請求をすることができます。
処分朝の不服申し立てのできる旨の教示
行政庁(例えば、福祉事務所長)は、行政不服審査法による審査請求をすることができる処分をする場合には、処分の相手方(例えば、保護開始の申請者)に対して、
①その処分について不服申立をすることができる旨
②不服申立をすべき行政庁名(不服申立先)
③不服申立をすることができる期間を書面で教示(教えること)
をする必要があります(行政不服審査法82条1項)。
例えば、保護開始申請に対して、A県の出先の福祉事務所長が却下の処分をした場合は、却下の通知書に次例のような「教示」がなされます。
「この処分に不服があるときは、この処分があったことを知った日の翌日から起算して3カ月以内に、A県知事に対して審査請求をすることができます。」
審査請求のできる期間は、「処分があったことを知った日の翌日から起算して3カ月以内」とされています。
処分の取消訴訟については、行政庁(例えば、福祉事務所長や知事)は、処分の取消訴訟を提起することができる処分又は裁決をする場合は、その処分又は裁決の相手方に対して次に掲げる事項を書面で教示する必要があります(行政事件訴訟法46条1項)。
①その処分又は裁決に係る取消訴訟の被告とすべき者
②その処分又は裁決に係る取消訴訟の出訴機関(訴え提起のできる期間)
③法律に、その処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消の訴えを提起することができない旨の定めがある場合は、その定めがある旨
例えば、保護開始申請に対してA県の出先の福祉事務所等が却下の処分をした場合は、却下の通知書に上記の行政不服審査法による教示とともに処分の取消訴訟についても次例のような教示がなされます。
「この処分の取消を求める訴えは、審査請求に対する裁決を経た後、その裁決があったことを知った日の翌日から起算して6カ月以内に、A県を被告として提起することができます。」
却下の処分通知書の記載例
保護開始申請に対する却下の処分通知書の書式は各自治体で決めていますが、次例のような理由不備の通知書が送付される場合も多いのです。申請に対する拒否処分の理由は、「同時に」適法に理由を明示する必要があるとされています。次の記載例は、保護開始の申請に対して、A県の出先の福祉事務所長が却下の処分をした場合の例です。
福祉第〇〇〇号
平成〇年〇月〇日
〇〇 ○○様
A県○○福祉事務所長(公印)
保護申請却下通知書
平成〇年〇月〇日付けで申請のあった生活保護法による保護については、下記の理由により保護できないので却下します。
記
1.却下の理由
稼働能力の活用により、保護を要しないと認められるため申請を却下します。
2.この通知が申請書受理後14日を経過した理由
関係資料の提出が遅延したため
教示、この処分に不服があるときは、この処分があったことを知った日の翌日から起算して3カ月以内に、A県知事に対して審査請求することができます。
この処分に不服があるときは、審査請求に対する裁決があったことを知った日の翌日から起算して6カ月以内にA県を被告として提起することができます。処分の取消の訴えは、審査請求に対する裁決を経た後でなければ提起することができないこととされていますが、①審査請求があった日の翌日から起算して50日を経過しても裁決がないとき、②処分、処分の執行又は手続きの続行により生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき、③その他裁決を経ないことにつき正当な理由があるときは、採決を経ないでも処分の取消の訴えを提起することができます。
以上
上の例の「却下の理由」は、単に「稼働能力の活用により」とするだけで、却下の理由が具体的に明示されていないので、行政手続法8条に違反する違法な処分と考えられます。「却下の理由」は、審査請求をするための必須の事項ですから、具体的に明示する必要があるのです。しかし、生活保護の行政実務では、上例のように「稼働能力の活用により」といった具体的な理由を明示しない場合があります。却下とは、保護申請が法律に規定する要件を満たしていないという意味ですから、どの要件を満たしていないのか具体的に明示する必要があるのです。たとえ「稼働能力」があったとしても、現実に仕事がなく収入のない場合は保護開始の必要があるのです。このような違法な処分を許さないためにハローワークで求職活動をした証拠を残すことも大切です。
保護開始が決定した場合でも支給額に疑問がある場合は、各自治体の個人情報保護条例を活用して自分の保護記録、支給額の計算記録、内訳書その他の一切の関連文書の開示請求をして、文書の閲覧をして必要な文書の写しの交付を受けます。閲覧は無料ですが、写しの交付には1枚10円のコピー代が必要です。閲覧請求をする場合も閲覧をする場合も身分証明書(例えば、運転免許証、個人番号カード)を持参する必要があります。